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岡山地方裁判所 平成元年(行ウ)12号 判決 1992年1月29日

原告

大森多喜

原告

大森元

右両名訴訟代理人弁護士

猿山達郎

藤巻克平

被告

岡山市

右代表者市長

安宅敬祐

右訴訟代理人弁護士

服部忠文

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が岡山県南広域都市計画事業田中野田地区土地区画整理事業(以下「本件区画整理」という。)において

(一) 別紙物件目録一記載の土地(従前地)(以下「従前地一」という。)につき昭和六三年七月一一日付岡区2第四七号(指定番号第五〇号)

(二) 同目録二、三記載の各土地(従前地)(以下「従前地二、三」という。)につき同日付岡区2第四七号(指定番号第五一号)

(三) 同目録四記載の土地(従前地)(以下「従前地四」という。)につき同日付岡区2第四七号(指定番号四五号)

をもってした仮換地指定処分(以下「本件第一処分」という。)をいずれも取消す。

2  被告が本件区画整理において従前地一につき同日付岡区2第四七号(整理番号第五二号、第六〇号、第一三七号)をもってした仮換地指定処分(以下「本件第二処分」という。)をいずれも取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告大森多喜(以下「原告多喜」という。)は、従前地一ないし三の所有者であり、原告大森元(以下「原告元」という。)は、従前地四の所有者である(以下、従前地一ないし四を一括表示するときは「本件従前地」という。)。

2  本件従前地は、被告が施行する本件区画整理の施行区内に存するが、被告は原告らに対し、本件従前地につき、別紙従前地・仮換地対照表記載のとおりの本件第一処分を行った(右処分の通知は、昭和六三年七月一九日、原告らにそれぞれ到達した。)。

3  また、被告は、原告多喜所有の従前地一につき、同土地を仮換地とする第三者に対する本件第二処分を行った。

4  原告らは、本件第一、第二処分(以下「本件各処分」という。)につき、昭和六三年八月三〇日、岡山県知事に対し、行政不服審査法に基づく審査請求を行ったが、同知事は、現在まで裁決をしない。

5  本件各処分の違法性

被告は、土地区画整理法三条三項に基づき本件区画整理を行うに当たり、条例をもって岡山県南広域都市計画事業田中野田土地区画整理事業施行規程(以下「本件施行規程」という。)を定め(同法五二条一項、五三条一項)、右条例を受けて本件区画整理の土地評価基準(案)(以下「本件評価基準」という。)を定めており、本件施行規程及び本件評価基準は、法規性を有するにもかかわらず、本件各処分は、以下のとおりこれらに違反しており、違法であるから、取消されるべきである。

(一) 被告は、本件区画整理に当たり、路線価を付設する道路を、本件区画整理に当たり、区域内に存するか、同区域に直接接する道路に限定したうえで、別紙現場見取図1のA道路(以下「A道路」という。)に路線価を付設した。しかしながら、A道路に路線価を付設することは、以下の点で違法である。

(1) 本件評価基準は、路線価を付設する道路を「車道機能及び歩道機能を満たした幅員四メートル以上の道路」と限定するのみであり、土地区画整理事業施行区域内にある道路及び同区域に直接接する道路に限定する規程はない。また、土地区画整理事業における土地評価の方法の一つである路線価式評価方法は宅地の利用価値を道路を媒介として決定するが、宅地の利用は、必ずしも同一の土地区画整理事業施行区域内の道路に拠っているとは限らず、右施行区域の方が後から決定されることも多く、人為的に決定される右施行区域の境界によって宅地の価値が左右されることは評価の適正と均衡を著しく損ない不合理である。したがって、路線価を付設する道路を、本件区画整理の区域内に存するから、同区域に直接接する道路に限定すること自体が違法である。

(2) 本件評価基準では、路線価を付設する道路について、原則として「車道機能及び歩道機能を満たした幅員四メートル以上の道路」であり、その例外として「宅地利用上これと同等の機能を有していると認められる道路」でもよいとしているが、右の原則、例外のいずれにも該当しないA道路に路線価を付設して従前地一ないし三の画地評価を行ったことは、本件評価基準に違反し、違法である。すなわち、土地区画整理事業における土地評価は、土地取引のための土地評価とは異なり、施行区域内に存在する宅地、農地、山林等を宅地または宅地見込地として捉えたうえで、宅地の利用価値に基づいて相互間の均衡を統一的に計量するものであるから、あくまで路線価を付設する道路は、宅地または宅地見込地の利用を可能とする道路に限定される。したがって、路線価を付設する例外的道路としての「宅地利用上これと同等の機能を有していると認められる道路」とは、宅地または宅地見込地としての従前地について、そのような土地利用を可能にする道通路(例えば、幅員は四メートル未満であっても自動車の通行可能な私道、通路等)を指すのであって、後述のとおり、車道機能を全く有せず、歩道機能も満足に有しない、いわゆる畦道であるA道路は、本件評価基準に定める路線価付設道路の要件を欠いている。

A道路は、土地台帳上、幅員三尺(約九一センチメートル)の農道であったが、昭和四五年一二月に設立認可された今土地区画整理組合が施行した区画整理では、幅員六〇センチメートルと認定され、昭和五六年八月時点において、既に道路とは認識できず、田の畦という状態で、昭和六二、三年頃は、幅員約五〇センチメートルで舗装もされていなかった。また、A道路は、今土地区画整理事業(以下「今区画整理」という。)区域内の幅員二七メートルの都市計画道路との交差部分では、A道路と右都市計画道路との間に約0.95メートルの段差があり、耕耘機の通行ができないのは勿論のこと、人が衣服を汚さずに徒歩で通ることさえ難しい状況であり、しかも、今区画整理の施行により、区域境で、切断、消滅し、行き止まり道路となっていた。さらに、A道路は、その東方約二〇メートルの位置にA道路と平行して幅員六メートルの道路(今区画整理による区画整理道路、以下「本件今区画整理道路」という。)が存在したこともあって、全く利用されず、廃道化していた。このようなことから、A道路が路線価付設道路に該当しないことは明かである。

また、土地区画整理事業における土地評価は、あくまでも施行区域内の土地を相対的に評価することが目的であるから、施行時期も異にする今区画整理における土地評価は、本件区画整理における土地評価と関係ない。

被告は、A道路のみならず、A道路を含めて本件区画整理の施行区域内に存する「軽四輪の通行不能な、農耕用の耕耘機及び歩行者の通行道路」延長約一三九〇メートルのすべてについて路線価を付設しているが、これは、被告が本件区画整理において路線価を付設する道路の44.55パーセントにも達するもので、被告の行為が明白に違法であることは、このことからも明らかである。

(二) 右(一)で述べた土地区画整理事業における土地評価のあり方からすれば、土地評価は、現実の土地の利用状況に基づいて行うべきであり、従前地一、二が、幅員六メートルの別紙現場見取図1の本件現況通路及び従前地三を使用して幅員六メートルの本件今区画整理道路としているから、従前地一、二の土地評価については、本件今区画整理道路または私道である右本件現況通路に路線価を付設し、これを基準にして、隣接する数個の画地を合わせて一個の画地とみなして袋地として評価すべきであり、そうでなくとも、一個の画地とみなし、あるいは一筆単位で島地として評価すべきであった。そうすると、従前地一ないし三を袋地とした場合には修正係数が0.95であり、島地(区分島地)とした場合にもその修正係数が0.95であるからA道路に指数六四〇の路線価を付して画地評価を行った場合よりもはるかに高い評価になることが明らかである。従前地一ないし三が被告の評価より高くされれば、これに対する換地も当然増加修正されなければならない。したがって、被告が行った従前地一ないし三の評価は本件施行規程に違反し、原告多喜の権利を侵害するもである。この本件今区画整理道路あるいは私道に路線価を付設すべき点については、実際に、被告は、本件区画整理の他の地点では、今区画整理により計画配置、造成された道路や和気勇所有の岡山市田中字野田五五〇番七の土地の一部にある私道について路線価を付設していることからも明らかである。

(三) 被告は、右本件現況通路を従前地の画地評価に当たっては、道路と認めないにもかかわらず、仮換地の画地評価に当たっては、本件現況通路を道路として扱っている節があるが、このような取扱いは違法である。

(四) 被告は、本件区画整理において、本件従前地以外の土地に関し、明確に地番が異なっていることから島地修正及び三角地修正をすべきであるのに、本件評価基準における特別の必要がないにもかかわらず、これらの土地を一体として評価し、必要な修正を行わず、また本来採用すべき路線価によらないで有利な路線価に結び付けたり(岡山市田中字ら田四三〇番、四三二番、四三四番)、地番と所有者が異なるにもかかわらず、必要な修正をしていない(岡山市田中字野田四八一番七等)。これに対して、、従前地四は島地修正がされている。このように、本件従前地以外の土地を違法に有利に扱うことで、原告らの従前地についての仮換地が不利に指定されており、違法である。

(五) 被告は、本件第一処分に先行して、従前地一、二に隣接する原告ら共有の岡山市辰巳字西野田四〇六番の土地(以下「四〇六番の土地」という。)につき、本件と同様に違法にA道路に路線価を付設して同土地を評価し、照応換地(整理後の画地の位置は従前地の近傍に定める。)及び従前地と換地の対応(換地は従前地一筆について一個を定める。)に反する違法な仮換地指定処分をしており、このような先行処分の違法は本件第一処分で是正すべきであるのに、是正されていないので、本件第一処分は違法である。

6  以上により、本件第一処分が違法であり取り消しを免れない以上、従前地一を仮換地とする本件第二処分も取り消す必要がある。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、3、4の各事実は認める。

2  同2の事実は認める(但し、別紙従前地・仮換地対照表の右端欄の△の一部支障部分を除く減歩率の算出については争う。)

3  同5の事実のうち、被告が本件施行規程及び本件評価基準を定めていること、路線価を付設する道路を本件区画整理の区域に存するか、同区域に直接接する道路に限定したこと、本件第一処分に関連して、A道路に路線価を付設したこと、従前地一、二が別紙現場見取図1の本件現況通路及び従前地三を使用して幅員六メートルの本件今区画整理道路と接続していること、従前地四に島地修正がされていること、被告が本件第一処分に先行して、原告ら共有の四〇六番の土地について仮換地指定処分をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  同6の事実は争う。

三  被告の主張

1  土地区画整理事業の施行目的は、施行地区内の公共施設の整備改善を図るとともに、住宅地として快適安全な市街地の造成を図ることを目的としているから、施行地区内の整理前の各画地評価をする場合、施行地区内に存する膨大な各土地の均衡を保つため、施行地区に接する道路及び施行地区内の道路に路線評価を付するのが原則である。

2  本件今区画整理道路は本件区画整理の区域外にあり、従前地一ないし三は、直接右道路に接していない。しかも、今区画整理道路と従前地一ないし三の間には、大森三千夫所有の岡山市辰巳二八番一〇七の土地、大森文郎及び原告多喜所有の同所二八番一〇八、同所二八番一〇九、同所二八番一一〇、同所二八番一一八の各土地が存在するが、このように、道路と区画整理の対象となる従前地の間に土地所有者を異にする複数の土地が存する場合は、私有地を買受けて通行の用に供するか、借地等により通行権を確保しない限り、評価設定した道路に至る手段がないから、右道路に路線価を付設して右対象従前地を島地評価することはかえって全体としての評価の公平を欠くうえ、後記のとおり、従前地一ない三はA道路に接しているから、島地評価することはできない。

3  路線価の評価は、土地評価に関する区画整理における減歩率に関係し、事業区域全体のバランスを考慮して決定しなければならず、既設の今区画整理による本件今区画整理道路を利用した場合の隣接する今地区との均衡をも考慮しなければならない。本件今区画整理道路は、今土地区画整理組合が施行した区画整理道路であるが、今区画整理は、施行面積二二三ヘクタール、平均減歩率23.94パーセントであり、右組合の組合員(地権者)の公平な減歩負担により整備された区画整理事業である。今区画整理の当初計画では、本件区画整理の区域全部をも包合するものとして計画されていたが、途中で本件区画整理の区域が除外されることになり、その後、独自計画として本件区画整理が計画施行された。本件今区画整理道路は、右道路に沿接する宅地利用を目的に計画配置されている道路であり、従前地一ないし三の土地利用を目的に計画配置されたものではない。それゆえ、本件今区画整理道路または本件現況通路に路線価を付設して画地評価しなかったとしても、地区全体の均衡からして評価の適正を欠くものではない。

4  路線価を付設する道路は、原則として、車道機能及び歩道機能を有する幅員四メートル以上の道路であるが、例外として、従前地においても土地の評価を行う必要から、宅地利用を可能とする道路(通路)があり、評価が地域の実状に合致する場合や換地処分を行う際に、通路、私道等に路線価を付設した方が評価が適切に行われる場合は、これらに路線価を付設すべきである。

これを本件区画整理施行区域についてみると、幅員四メートル以上の道路は、施行地区の中央部を南北に通って、南から東に当新田に至る県道当新田中仙道線延長約六二〇メートル、同県道から岡山県技能開発センターに至る市道他延長約二三〇メートル及び宅地開発の目的で設けた指定道路延長約一〇〇メートルが存在する。また、幅員四メートルに満たない道路としては、軽四輪自動車の通行可能な道路延長約七八〇メートルがあり、軽四輪自動車の通行はできないが農耕用の耕耘機及び歩行者の通行が可能であり当該道路に面する農地の利用に供されている道路がA道路を含め延長約一三九〇メートル存在する。

このうち、A道路は、公道として岡山市備付けの土地台帳及び法務局付けの切絵図にも明記されており、廃道ではなく、公用廃止もされておらず、御野郡辰巳村土地台帳にも幅員三尺とされている。本件区画整理の施行区域全体から考慮すると、幅員四メートルに満たない道路で、軽四輪自動車の通行不可能な道路であっても、同区域内で農耕用等の土地利用のうえで、A道路から利益を受ける土地は多く、また、歩道機能を有する道路として宅地利用上も必要不可欠な道路であり、同区域内にとって、重要、不可欠な道路である。したがって、A道路に路線価を付さないで評価することは、地域の実状に合わないことになるから、A道路及びこれと同等以上の機能を有している道路にすべて路線価を付設して従前地の評価を行ったのである。しかも、実際の評価に当たっては、A道路の幅員を1.2メートルとし、A道路に接する従前地所有者に有利に幅員を設定して評価計算したものである。

また、本件区画整理の区域において、整理前の道路で幅員一メートル以下の道路で路線価を付設した道路は、A道路を含め六路線あるが、今区画整理の場合は、A道路と同程度の幅員一メートル以下の道路で路線価を付設した道路が四二路線ある。このように、本件区画整理においては、区域全体の公平、平等な土地区画整理事業を施行するため、A道路に路線価を付設したもので、何ら本件評価基準に反するものではない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1ない4の各事実(別紙従前地・仮換地対照表右端欄の△の一部支障部分を除く減歩率の算出に関する部分を除く。)及び被告が本件施行規程及び本件評価基準を定めていること、被告が路線価を付設する道路を本件区画整理の区域内に存するか、同区域に直接接する道路に限定したこと、本件第一処分に関連してA道路に路線価を付設したこと、従前地一、二が本件現況通路及び従前地三を使用して、幅員六メートルの本件今区画整理道路と接続していること、従前地四に島地修正がなされていること、被告が本件第一処分に先行して、原告ら共有の四〇六番の土地について仮換地指定処分をしたことは、当事者間に争いがない。

二右争いのない事実に証拠(<書証番号略>、証人友実義彦の証言、原告元本人尋問の結果、弁論の全趣旨)を総合すれば、以下の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  本件区画整理は、被告が施行者となり、土地区画整理法五二条一項、五三条一項に基づき本件施行規程及び事業計画を定めるとともに、本件評価基準、基準地積決定基準、換地設計基準(案)等が定められた。

2  本件区画整理の施行区域は、当初、これに先行して実施されていた今土地区画整理組合(昭和四五年一二月五日同組合の設立認可)施行の今区画整理の施行区域の一部であったが、その後、今区画整理とは別個に施行されることになった。そして、本件区画整理の施行区域は、先行する今区画整理にほとんど周囲を取り囲まれたような位置にあり、しかも、両区域の土地の現況についても、水田等の農耕地の占める割合が高く、幅員の狭い農道が多いという点で共通性があり、しかも今区画整理がなお並行して進行中であったことから、被告は、今区画整理の施行状況を十分考慮に入れて、本件区画整理を施行した。

3  本件区画整理の施行区域内にある従前地一ない三は原告多喜が所有し、従前地四は原告元が所有し、従前地一、二に隣接する四〇六番の土地は原告らの共有である。被告は、本件施行規程及び本件評価基準等に基づき、昭和六二年一一月一〇日付で原告らに対し、右四〇六番の土地を従前地とする仮換地指定通知をし、昭和六三年七月一一日付で従前地一ないし三につき原告多喜に対し、従前地四につき原告元に対し、それぞれ仮換地指定通知をした。

4  本件評価基準は、建設省都市局区画整理課が監修し、社団法人日本土地区画整理協会が発行した区画整理土地評価基準(案)を参考に作成されたものであり、本件評価基準における「路線価を付す道路」として「路線価は原則として、車道機能及び歩道機能を満たした幅員四メートル以上の道路に付設することとするが、宅地利用上これと同等の機能を有していると認められる道路にはこの限りではない。」と規定しており、右規定は、右建設省監修の土地評価基準と同内容となっている。

5  被告は、仮換地指定のための土地評価の基準となる路線価を付設する道路につき、本件区画整理の施行区域内に存する膨大な各土地の均衡を保つため、右区域内にある道路または右区域に直接接する道路に限定し、従前地一ないし三の評価に際しては、右区域の東側境界線であるとともに、従前地一ないし三が直接接している農道であるA道路(別紙現場見取図2の「K45」から「K51」を経て南に伸びる道路)の幅員を1.2メートルとしたうえで六四〇の路線価を付設した。A道路は、先行する今区画整理の際には、幅員六〇センチメートルとして三五一の路線価が付設されていた。

6  A道路は、御野郡辰巳村の土地台帳上は幅員三尺(約九一センチメートル)と記載され、その所在場所は、別紙現場見取図3の「K45」から「K51」を経て「K61」まで(延長約四〇〇メートル)の農道部分に相当し、現在までこの道路が公用廃止されたことはない。A道路の現実の幅員は場所によって異なるが、原告多喜は、昭和六〇年八月頃にA道路の使用許可申請を岡山市長宛にしているが、その際、本件現況通路上のA道路部分の幅員を九一センチメートルとして申請している。A道路は、周辺の田圃との段差も少なく、歩行及び耕耘機の通行は可能である。A道路は、本件区画整理の施行時において、前記K51付近で別紙現場見取図1の都市計画道路と接しており、右都市計画道路の路面がA道路より約九五センチメートル高いことから右都市計画道路とA道路との通行は不可能であるが、A道路自体の歩行者の通行は可能である。平成二年四月頃の本件現況通路付近におけるA道路は、本件区画整理の進行に伴って農道としての形跡は殆ど残っていない。

7  従前地一、二は、A道路に直接接しているが、本件今区画整理道路との間には第三者所有の本件現況通路が存在している。A道路はその幅員が狭いため実際には殆ど使われず、原告らは、従前地三及び本件現況通路を通ってA道路の東方約二十メートルにA道路と平行している本件今区画整理道路を利用している。本件今区画整理道路は、今区画整理の施行区域内にある同区画整理により整備された幅員六メートルの道路であり、遅くとも昭和五六年八月時点までには既に整備されていた。

8  本件区画整理の施行区域内における道路状況は、幅員四メートル以上の道路が右区域中央部をほぼ南北に走る県道等延長合計約九五〇メートル、幅員四メートルに満たないが軽四輪自動車の通行可能な道路が延長合計約七八〇メートル、幅員四メートルに満たず軽四輪自動車の通行も不可能であるが、歩行者及び農耕用の耕耘機の通行が可能な道路が延長合計約一三九〇メートルである。本件区画整理において、幅員四メートル未満で軽四輪自動車の通行は不可能であるが、歩行者及び耕耘機の通行可能な道路で路線価を付設された道路は、A道路を含め六路線(但し、A道路はこのうち三路線分)であり、六路線全部の実際の幅員は九〇センチメートルであるが、路線価の付設に当たっては、1.2メートルと認定している。この点につき、今区画整理においては、幅員1.0メートルのものが二一路線、幅員0.9メートルのものが一三路線あるほか、幅員0.6メートルのものが八路線存在している。本件区画整理における平均減歩率は25.79パーセントであり、今区画整理における平均減歩率は23.944パーセントである。

三そこで、被告が、本件従前地につき、原告らが実際に利用している本件今区画整理道路を前提とした評価をせず、A道路に路線価を付設して評価したことの適法性について検討する。

1  原告らは、路線価を付設する道路を本件区画整理区域内に存するか、同区域に直接接する道路に限定したこと自体が違法である旨主張する。

土地区画整理事業における土地評価は、広範囲における多数の土地について、区画整理事業による宅地の価値変化を計測し、施行地域内に定着する権利相互間の公平を図ることを目的とするものであり、被告においては、右評価に際しては、路線価を付設する道路を右施行区域内に存する膨大な各土地の均衡を保つため、施行区域内にあるか右区域に直接接する道路に限定していることは前記のとおりであるが、通常区画整理施行区域は膨大であり、右区域内の権利相互間の公平・均衡を図るという区画整理における土地評価の目的に鑑みると、路線価を付設する道路を右道路に限定したこと自体をもって違法とすることはできず、具体的な土地評価が右目的を阻害する場合に初めて違法となると解すべきである。

2  そこでA道路に路線価を付設して従前地一ないし三を評価したことが、本件評価基準に違反するか否かにつき判断する。

前記認定事実によれば、本件区画整理の施行区域は、本件区画整理によって既成の市街地の再開発をめざすのではなく、本件区画整理によって新たに市街地を形成することを主な目的とする地域であり、本件区画整理の施行区域のような場合は、幅員の狭い公道が多く、これらの道路は車道機能を十分有しない場合が多いが、このような区域における路線価付設道路の選択に際しては、公図上では道路として存在していても実際上利用されておらず、かつその幅員も極端に狭いものを除き、公道として私的制限を受けることなく何人も利用できる道路であり、かつ将来の公的投資によって改善できるような潜在的価値を有している道路も路線価付設道路の対象となると解すべきである。

さらに、前記認定事実によれば、本件区画整理の施行区域は、当初先行する今区画整理として施行される予定であったが、その後、本件区画整理が今区画整理から分離して施行され、本件各処分当時も今区画整理が進行中であった経過があるほか、地理的にも、本件区画整理の施行区域は、その周囲の大部分を今区画整理の施行区域に取り囲まれ、いわば今区画整理の残地ともいうべき位置関係にあり、しかも、右両施行区域ともに、区画整理前は、水田等の農耕地の占める割合が高く、幅員の狭い農道が多い点で共通していたのであるから、被告が本件区画整理の施行区域における土地の評価に際して、今区画整理における施行状況を充分考慮に入れて土地評価を行ったことは合理的であるといわなければならない。

以上の観点からA道路についてみると、本件区画整理においては、A道路を含む幅員0.9メートルの路線価付設道路は六路線(このうち、A道路が三路線分)で、これ以下の幅員の道路には路線価を付設していないのに対し、今区画整理においては、幅員0.9メートルの十三路線のほか、幅員0.6メートルの八路線にも路線価を付設しているのであり、これに前記認定の本件処分当時におけるA道路の現状及び被告がA道路の路線価を算定する際に、その幅員を1.2メートルと評価し、本件従前地所有者に有利な取扱いをしていることを併わせ考慮すると、被告がA道路に路線価を付設して本件従前地を評価したことは、本件評価基準に反するものではなく、原告らの権利を不当に侵害するものではない。

3  更に原告らは、本件今区画整理道路または本件現況通路に路線価を付設して島地、袋地として従前地一ない三を評価すべきである旨主張するが、右従前地についてA道路に路線価を付設して評価したことが適法であることは前記認定のとおりであるから、原告らの右主張は採用できない。

四原告らは、被告が本件現況通路を従前地の画地評価に当たっては道路と認めていないのに、仮換地としての画地評価に当たっては、これを道路として扱っていることは違法である旨主張するが、土地区画整理が土地の区画形質を変更して宅地としての価値の増進を図ることを目的とする以上、右取扱いは何ら違法ではなく、この点に関する原告の主張は理由がない。

五原告らは、被告が従前地一、二に隣接する原告ら共有の四〇六番の土地についてもA道路に路線価を付設して行った仮換地指定処分は違法であり、この違法を是正しなかった本件第一処分は違法である旨主張するが、前記二で判示したところによれば、四〇六番の土地に関する右処分は何ら違法ではないから、この点に関する原告らの主張も理由がない。

六さらに、原告らは、被告が本件従前地以外の土地を違法に有利に取扱うことにより、本件従前地についての仮換地が不利に指定された旨主張するが、右主張に添う<書証番号略>、原告元本人尋問の結果はいずれも信用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はないから、原告らの右主張は採用できない。

七以上説示のとおり、本件第一処分は適法であるから、右処分の違法を前提とする本件第二処分取消請求も理由のないことは明らかである。

よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民法法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官將積良子 裁判官安原清蔵 裁判官遠藤邦彦)

別紙物件目録<省略>

別紙従前地・仮換地対照表<省略>

別紙現場見取図1<省略>

別紙現場見取図2<省略>

別紙現場見取図3<省略>

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